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田中健治 代表取締役 株式会社田中建設

創業85年、神社仏閣を建造する「宮大工」の伝統を今に受け継ぐ株式会社田中建築。日本の風土に合わせて培われてきた日本建築は日本人にとって最適な住宅であるという信念のもと、田中建築では一般住宅の建造にも神社仏閣で用いられる木造軸組み工法を用いています。代表取締役の田中健治さんが目指す“本物の家”とは、100年経っても生き続ける家。それこそが究極のエコハウスといえます。

“本物の家”を求める気持ちから勉強会をスタート

丸谷博男先生とは、先生が柳川の瑞松院というお寺の庫裡の設計をされたときに、うちがその設計施工を請け負ったことでご縁をいただきました。

6年くらい前に福岡県建設業共同組合の部長をしていたときに、何かテーマをもって勉強会をしようということになり、近年ずっと頭の中にあった「木造の住宅建築の本当の姿とは何か、本当の家づくりとは何か」をテーマにしようと思いました。世の中の建築は値段の競争ばかりになっていますが、住み手の立場に立った建物がつくれているのかと考えることがよくあったのです。柳川まで先生がみえたときにお酒を飲みながらその話をしたら、先生も昔から興味をもっていらしたようで、すごく意気投合して。最初の講義を先生にお願いすることになりました。

最初は1回きりの講演をお願いするだけのつもりだったんですが、青年部のメンバーみんなが同じ気持ちを持っていたようで、丸谷先生に講師になっていただいて、定期的に本物の家づくりについて勉強会を開こうということになりました。つまり、最近の家づくりでは、内装ならプラスターボードの上にビニールクロスを貼るでしょう。そして、外壁ならサイビング。そんなものばかりつくっていて、みんな嫌気がさしていたんですね。

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「力のある家造り」のブランド化を目指す試み

そんな中で、平成21年に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が出てきました。それで、長期優良住宅をテーマに組合発のブランドをつくろうかという話になって、生まれたのが「力のある家づくり」。そのブランド化のために自分たちも勉強して、マイスターにならんといけないということでつくったのが「家づくりマイスター」なんです。
この4年間、このプロジェクトを進めてきました。最初はいろんな部署を作って、「家づくりマイスター講座」はもちろん、地域のユーザーにも勉強していただきたいという思いから「住み手マイスター講座」を開いたりといろいろ動いてきました。しかし、みんなやはり仕事もあるので、なかなか進められない部分もありました。マイスター講座にも、始めて2〜3年はみんな熱心に講座を受けていたんですよ。組合員、組合員の会社の社員さん、若い方もたくさん来てくれて。でも、続けるのはなかなか難しい。限界がありました。丸谷先生は、じれったい思いをたくさんされたんじゃないかな。
そのうちに長期優良住宅の助成制度がいろいろ変わって、組合でその認定を取得することを目指して、2回チャレンジしましたが、2回ともダメだったんです。私も青年部長もそれ以上はできなくて、組合としての動きが小さくなってしまいました。でも、形としてなんとか続けていきたかった。丸谷先生もそれだけやったのに、終わらせてしまうのはもったいないと思ったんでしょうね。それが今、「エコハウス研究会」という形になっています。

日本建築は、土を再利用する究極のエコハウス

土壁についてお話すると、私はこの仕事を始めて30年くらいになりますが、そのときにはもう土を発酵させなくなっていました。土に藁を入れるまではしても、発酵させることまではしなかった。厚さもそんなに厚く塗ることはなくなっていました。壁木舞といって割り竹で下地を組むのですが、柱が4寸柱にしても、土自体は2寸くらいの厚さですよ。裏表それぞれ11寸くらいしか塗らない。

本当に昔は、土を寝かせて、発酵させたものを使っていたんです。土に藁を入れて水と練ってどろどろにして、陶土みたいにしてから日にがんがん当てて、短くて34ヶ月、長い時では半年置いておく。すると藁が腐って溶けるので、土自体に粘りが出るんですね。雨にも当てて、本当に自然に発酵させていました。それを時間をかけて塗っていたんです。発酵させていないと、壁にヒビがバリバリ入るんです。その上に中塗りをしますので、わからないといえばわからないのですが、緻密さはありませんよね。発酵させた土にもヒビが入ることはありますが、すごく小さいんですね。ヒビが入ったら絶対にダメというわけではないけど、長く使う間に、土本来の機能、例えば湿気の調整具合が変わってくると思います。

実は、土は何度でも再生できるんです。古くなった家を解体するとき、壁の土をきちんと集めます。それに新しい土を混ぜて、量を調整して、また使う。文化財などを解体するときにも、壁の土を全部集めます。その土に、100年前、200年前の稲が入っていることがあるんですが、なんと芽が出ることもあるんですよ。つまり、壁が呼吸していて、生きているということ。すごい話でしょ。日本建築は究極の再利用、無駄にしないという文化なんですね。

今、うちがお願いしている左官さんは、自分のところで発酵させた土をつくっています。その土で土壁をつくると、費用が1.3倍から2倍もかかることになります。何百万円も違うこともあります。今の世の中は安くなくちゃいかんとばかりに値段だけで決めてしまうところがあり、塗ってしまえばわからないかもしれませんが、同じ土壁でも土の中身がまったく違うんです。その違いを、お寺の住職さんなりのユーザーさんが理解してくれることが必要なんですね。

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デザインや機能だけでは、いい家にはならない

うちは自分で56代目となる老舗ですが、長い間、建築とはこんなもんだと思ってやっていたところがあります。デザインや機能のほうが大事だと思って、そっちに走ったときもありました。いい家づくりがそっちのけになったこともあります。でも、デザインだけ良くてもちょっと違うなと思うことが出てきていたんです。

 

昔の田舎の住宅では、土壁が基本だった。その後時代が変わって、合板が使えるようになり、その合板の耐久性が良くなっていき、どんどん使用されるようになりました。それが間違いでしたね。そのあたりは、みんなずいぶん分かるようになってきましたけれど、2×4などは相変わらず合板で固めてますからね。長期優良住宅でも、構造的に合板じゃないといけないという規定がありますしね。そのときの抜け道、例えば屋根の通気をするとか、瓦の下地の部品や材料に何をつかうかなどの案を、丸谷先生に教えていただけたのは良かったですね。

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感性を磨き、さらなる「いい家づくり」を求めて

私は「エコハウスマイスター養成講座」の第4期で「エコハウスマイスター」になりました。養成講座では「家づくりマイスター講座」で講義をしっかり受けていたのですが、そのときよりも内容が進化していると感じました。先生の素晴らしいところは、素直に「間違い」を認めるところ。だから進化がありますよね。先生自身が立ち止まらないから、講座の内容もどんどん進化していますね。「エコハウスマイスター」にしても「エコハウス研究会」にしても、1年たてば内容はどんどん進化して変わっていく。

 

うちは寺社仏閣などの特殊建築をメインにしていますが、一般住宅もお話があればお引き受けします。でも、やるからにはある程度のことは常にしっかり勉強しておかなくてはいけない。建築資材のこともきちんと分かっていないといけないし、技術もきちんと勉強していかないといけない。

昔の知識では古くなっている部分や、間違っている部分がありますからね。「昔ながら」だけではいけないのです。毎年というわけにはいかないけど、定期的に話を聞いて勉強する必要があると思いました。

 

これから先大事なのは、自分の感性ですよ。デザインにしても材料にしても、感性を磨かないといけないですよね。一般住宅も神社仏閣にしてもそれは同じだと思います。うちが何年か前に作った神社がかっこいいと評価していただくことがあって、すごく嬉しかったですね。