img_2056-640-700.jpg

12
和氣文輝 株式会社フケタ設計

宇都宮に本社を構え、大正12年創業以来、栃木に留まらず、茨城、群馬、埼玉など関東エリアに事務所を持つ株式会社フケタ設計は、主に小中学校や幼稚園、社会福祉法人など地域に根付いた大規模な建築物を請け負う総合事務所です。今回ご紹介する和氣文輝さんは、フケタ設計に在籍し、さまざまな現場を経験してきた人物。一見、鉄骨RCの建築物と木造のエコハウスは非なるもののように思いますが、和氣さんはそこに建築本来の可能性を感じているようです。

丸谷先生の建築を以前から参考にしていた

丸谷先生と初めてお会いしたのは平成25年。栃木のエコハウス研究会でした。ところが、実は以前から丸谷先生が手掛けた建築をいくつか知っていて、参考にさせてもらっていたんです。ポットストーブや煙突の熱の取り方など、単純だけど、実に良くできているなととても印象に残っていました。
それまで私は自分なりにエコハウスってなんぞやと本を読むなど自分なりに勉強して、矢板のコンペに挑戦しました。私は地元が矢板なので、これは絶対に獲りたいと思って…。集中して勉強したおかげで、こういうのがいいと言える提案ができて、見事当選しました。ところが、短期間で知識は入れたものの、具体的にこれは本当にこうなるのかな…と心配だったんです。会社の誰もやったことがないし、もちろん私も経験がなく本当にチャレンジでした。設備的なものを調整するなど試行錯誤の繰り返し。煙突の外側の熱を取り方については当初、煙突とは別に上から熱を下ろすパイプを作っていたんです。すると環境のスペシャリストである東京都市大学の宿谷先生に「ファンをももうひとつ付けるのはもったいないね」と言われて。煙突の中に吹き込んで下におろしたらいいのかなと考えた時に、丸谷先生の吉井町の家を思い出したんです。それを参考に設計レベルで余計はファンをなくすことができました。それが今回このような出会いになり、講習会で「私、先生の建物を参考にしていました」と声をかけたほどです(笑)。

IMG_1630-640.jpg
IMG_6047-310-465.jpg

技術を数字で解説され、深く納得

エコハウスマイスター養成講座に参加して思ったのは、私たちが「おそらくこうだろうな」と思っていることを、すべて丸谷先生はすでにわかっているということです。それがドンピシャなんです。こうしたらこうなるということを数字的に教えていただいて、技術を納得させられるものにしているのがスゴイと思いました。矢板のコンペで建築した建物の欠点は湿度調整でした。どれだけ気を遣っても、丸谷先生から教わった土壁のウォーム層の調湿機能にはかないません。基本的に長時間かけて調湿するのに対し、土壁は1〜2日ですぐ吸ってすぐ吐き出すんです。全国のあちこちで土壁を使った人は「土壁は熱を吸収する」と言うんですが、私にはそれがピンと来ませんでした。熱を奪ってくれると言うんだけど、それは放射だったんです。水分を吸っているので、暑くなってくると気化熱で冷たくなる。それから次は放射する。それが土壁の機能だったんですね。それを先生は数字で化学者のように教えてくれるんですよ。先生は建物のひとつひとつだけではなく、デザインを含め、トータル的に考えている。本当の建築家というのはこういう人だなと思いました。快適な家を作るためには技術も必要なのは当たり前ですよね。そうした本筋を知って、技術も考え方もすべてオープンにしているのが先生の素晴らしいところだと思います。自分の知識や技術を伝えて、もっと質の高いものを、もっと人のためになるものをみんなで協力し合って作りましょうという人柄に感銘を受け、ファンになり、その養成講座ならぜひ受けようと思いました。

IMG_6044-310.jpg
IMG_6046-310-465.jpg

次世代に残すために、エイジングする建物を

私は組織事務所に勤めていますので、木造建築は畑違いなのではと思われるかもしれません。私がエコハウスをやってみたいと思ったのは、シンプルにそれも興味があったからです。
最近ではあまりにも乾いた素材を使っているのが気になります。デザイン優先で、空間的に芸術性の高い建築物はあるんですけど、実際に人が住むとなったらそれだけではないじゃないですか。次の世代に残すために、エイジングする建物じゃないと長持ちしないと思います。それなら本物を使うしかないんですよ。あとは先人の知恵。丸谷先生もそうだったと思いますが、突き詰めていくと昔の人の工法にはかなわないんです。やればやるほどそう感じます。昔の工法に足りないのは断熱ですね。そこだけが足りませんが、それは現在の技術で解決できる。
昔の知恵を活かし、素材の扱い方を見直して、地域で素材を選べば、地域社会がもっと循環すると思います。もともと建築は地域の素材をみんなで使っていたんですから。

見える化で、エコハウスの考え方を応用したい

丸谷先生は最先端の人だなと思います。ずっと新しい技術に挑戦している。それもデータをしっかり取って、納得できる技術にしているところに感心します。太陽光でも「今どれだけ発電しているか」など頭で何となく理解していることを目で見ると、人は感じることができるんですよね。それが一年間通じてグラフにしてみると環境コードが促進されることだってあります。
そう考えると「見える化」はとても大切だなと思います。私はこれから、エコハウスマイスター養成講座で学んだ住宅など小さな建物に用いられた技術を、大きな建物に応用していきたい。例えば、私はコンクリートの建物は外断熱にして、熱容量をいかした建てものにしていくべきだと思います。コンクリートはセメントを作る段階で大量のCO2を排出する上に、50年くらいで劣化してしまい、補修工事をおこなわなければならない。それでもまだコンクリートを使うなら、もっと長持ちするようにしないと。そのためにはもっと完璧なシミュレーションをして、費用対効果が表れることを証明し、自治体などが納得する提案をしていけるようになりたいですね。
エコハウスマイスター養成講座で学んだ技術では、屋上緑化や輻射冷暖房などに挑戦してみたいと考えています。病院や社会福祉施設など、そこで生活している人がいる建物に応用すれば、より快適な暮らしをご提案できるのではと思っています。